凡庸

週一くらいが目標です。

一人で逃げ出したかった、君のぬくもりから。

 先日、職場の飲み会が終わったあと、「じゃ、僕このまま一人カラオケしてきますんで」と集団からはぐれていこうとすると「え?車で送って行ってやるっていってるやん」「遠慮すんなよ」「そんな嘘つかなくていいよ」と言われるので、「いや、マジです。マジで一人カラオケしたいんです」と頑なに固辞するものだから、皆ドン引き。「そっか…じゃあ楽しんで…」みたいな見送られ方をして、みんなは帰った。僕はカラオケ屋へ。
 結局一時間半ほど、スカパラやモモクロ、最近はまっているでんぱ組.incなど、いろいろ熱唱して帰った。


 酔っぱらって調子乗っていたので、最終バスのことなぞ全く頭になく、0時をとうにまわっていたため仕方なく徒歩で帰った。たぶん30分くらい、酔っぱらっていたのでよくわからなかったけど。
 あたたかかった。スーツの上に冬物のコートを前を開けて羽織っていたのだけれど、まったく肌寒くなかった。平日の深夜だったので、街灯だけがしんとしていた。ときどきタクシーが通り過ぎたり、コンビニに人が出入りしていた。


 なんとなく、卒業式の前の夜を思い出した。卒業式の前の夜も、あたたかい夜だった。4年間住んだ京都を離れる寂しさに、行く宛てもなく慣れた街を自転車でうろうろしていた。
 そのころは本当に自分の学生生活が終わってしまうなんて、卒業式の前日になっても信じられなくて、友人たちと一緒に尻を並べてラーメンをすすっていた時間が奇跡のような時間になってしまうなんて、思いもよらなかった。
 卒業したらどうなってしまうのか、知りたくなくて、少しでも夜を引き延ばしたくて、夜の京都をフラフラと自転車で走っていた。
 その日の夜は、春らしいあたたかい夜だった。

 それからずいぶん経って、結婚もして、今度子どもも産まれることになって、大人になった。あの頃の毎日もちょっとずつ思い出せなくなって、今は今で幸せじゃん。飲んで帰って楽しくなっちゃって、一人でカラオケ寄って帰って、幸せじゃん。夜なのにこんなあったかいしさ。


 そんなあたたかい夜が、あの卒業式の前の夜とつながっていたっていうのは、ちょっと驚きだった。卒業式の前夜、色んなものが変わってしまうと思って必死にチャリンコ漕いで逃げようとしていたけど、結局、あの夜と同じように、いまだって春の夜はあたたかい。
 あの頃の僕に、そんな一生懸命逃げなくっても、夜を引き延ばさなくっても、結構幸せにやってるよ、と教えてあげたい気分だった。


今週のお題「卒業」