凡庸

週一くらいが目標です。

濃く書き直される自他境界線、まだ始まらない第三回戦

 クラブに行くのが好きだった。

 たしかくるりの「ワールドエンドスーパーノヴァ」の四つ打ちが好きで、それがクラブミュージックってかっこいいなと思ったきっかけだったと思う。そういえば高校生の頃にリップスライムのバックトラックがピコピコしてていいなとも思っていた。

 でもクラブミュージックとかハウスとかテクノとか何聞いたらいいか全く手がかりがなくて、なんかわからないけどFatboy SlimFantastic Plastic Machineには自力でたどり着けて、でもそれが限界だった。

 で、しばらくして嫁入りランドとプロポーズの「しあわせになろうよ」でオノマトペ大臣を知って、そこから「水星」にたどり着いた。tofubeatsにハマった。

 で、家でコソコソとtofubeatsや周辺のミュージシャンやDJの楽曲を聞きながら、車の中とかでいい気分になっていたけれど、それがクラブミュージックで、すなわちクラブでかかるミュージックであることは知っていた。けれどもクラブはなんだか怖かった。

 

 でもやっぱりいつまでたってもクラブは僕の中の気になりリストに入ったままでずっとモヤモヤしていた。とんかつDJアゲ太郎を読んだりしてうらやましさを募らせていた。ネットでいろいろ調べたりしながらなるべく怖くなさそうなクラブをピックアップしたりしていた。

 30歳になるちょっと前に、ピックアップしていたクラブにtofubeatsが来ることを知り、クラブデビューを果たした。

 

goodhei.hatenadiary.jp

 

 以来、Twitterやなんかで教えてもらったり仲良くしてもらったりしつつこそこそとクラブに行っていた。楽しかった。

 クラブは音がデカい。音がデカいので音楽以外の音がほぼ聞こえない、聴覚が奪われる。おまけにクラブミュージックは同じリズムやメロディがループするので時間の感覚が摩耗する。しかもイベントは真夜中から明け方にかけて行われるので眠いし疲れて身体感覚がマヒする。もちろん真っ暗なので視界はないし、酒を飲んで頭は酩酊状態だ。

 そんな風にして踊ってんだか躍らされてんだか、ステップなんだから千鳥足なんだかでフラフラしていると気持ちがいい。自他境界線みたいなものがどんどんすり減って曖昧になっていく。自分が失われていく。自分が溶け出していく。

 明るいうちは労働者とか家庭人とか、そういうカチッとした枠組みの中で生きている。でもたまにはこんな怪しげなところでこんな時間に俺は溶け出している。そういう気分になれるのがよかった。

 

 それがこのコロナのせいでしばらくクラブに行けていない。せっかく仲良くなれた人たちとも会えていない。

 何度か配信も見たりもして、そうそうこれこれと気持ちよくもなったけれど、やっぱり自分がいるのは家であるので、現場で感じたあの感覚は味わえない。家族がいる。

 ある程度仕方ないという折り合いがついていたつもりだったけれど、先日どうしても魅力的なイベント(オーツー)があるのに行けない、というそのやるせなさにすっかりしょげてしまった。

 もう僕は安心してクラブに行けないんだろうか。行きたいなあ。また現場で会えたら乾杯したいす。