コロナウィルスにかかってしまった。
妻から次女が発熱したとの連絡をうけ、とうとう我が家にもコロナウィルスが迫ってきたかと心配し、しばらく出勤できないかもしれないと職場で身辺整理を行った。
しかしなんのことはなく、翌日には次女の熱は平熱に戻っていた。
やれやれ、小さな子どもにありがちな意味なく急に熱が出るやつかと思いながら週末を過ごしていると、次女の保育園から休園のお知らせが届いた。
妻の職場でも保育園や小学校の休園休校の影響で人手が足りないらしく、週明けは僕が次女と共に家で過ごすことにした。
次女と過ごしながらなんとなくだるさや頭痛があったが何か疲労のせいだろうと思っていた。
何度か熱も測ったが平熱だった。
夕方より少し早いころに長女が帰ってきたので、あまりテレビやゲームばかり見ないようにと言い置いて少し横になった。
暑苦しい夢に汗をかきながら目を覚まし、熱を測ってみると38.0℃だった。
いろいろと葛藤した。
何とかこの体調不良をねじ伏せ、隠ぺいして出勤できないだろうか。ぐっすり眠れば明日には熱も下がってはいやしまいか。検査さえ受けなければコロナウィルス陽性かどうかはわからないのではないか。
とりあえず妻には発熱した旨は伝えた。
この日は職場にはまだ何とも伝えていなかった。
妻が帰ってくるころには熱は37.5℃を下回っていた。
あまり食事をする気分ではなかったので二階に布団を敷いてそこで寝かせてもらうことにした。
布団に入りながら、まさか自分が自分の都合と公衆衛生とを天秤にかけて葛藤することになるとは思わなかったと情けない気分になっていた。
普段は偉そうに真っ当なことを言っていてもいざ自分がその立場に置かれると、あわよくば自分の都合を優先しようとしてしまう。
この時期の発熱症状ならほぼ間違いなくコロナウィルスを疑って当然だし、その身で外に出歩いたり仕事をするなんてことは世の迷惑を考えたらありえない。
それでも自分に限ってはコロナウィルスではなく、結局ただの風邪に落ち着いて、朝にはすっかり解熱していてはくれまいかと期待しているのだ。
情けなさで余計に頭が痛い。
朝少し早めに起きて熱を測ると37.0℃を少し上回る程度だった。
妻を起こして今後のことを話していると、長女が起きてきた。
少し泣きながら頭が痛いというので熱を測ってやると38.0℃を越していた。
観念した。
職場には連絡を入れ、その日のうちにかかりつけの内科で検査をしてもらえた。
予想通りのコロナウィルス陽性。
翌日には長女も小児科で陽性との検査結果、付き添いの妻も喉の痛みを感じていたのでその小児科でみなし陽性とされた(検査キットが不足しているそうだ)。
その後自分自身は熱もなく、少しの倦怠感と咳症状。長女は2日ほど発熱が続いたものの、子どもは不思議なもので、だいたい元気そうにしていた。
妻が後から喉の痛みと高熱を発してしまい、いまもぐったりと寝ている。
次女は全く平気そうだ。
僕に限って言えば、出勤できないことのほうが辛い。
10日間の自宅待機なので、その間の僕の仕事は解体され、分配され、再構築されて取り組まれる。
一応自分なりに方針を発信するのだけれど、やはり現場判断のスピード感にはついてはいけず僕の仕事だったものが色んな人の手に渡っていく。
意外にこれが結構辛かった。
それほど仕事に熱心なタイプではないとうそぶきながらも、それなりに自分の仕事には愛着があったようだった。
中学の頃から英語で仕事も作品も”Work”というのが不思議だったけれど、今なら少しわかる気がする。
電話やメールで一日に何回も「すみません」と「ご迷惑おかけします」と「ありがとうございます」と「お手数おかけします」と「申し訳ないです」と「助かります」とを繰り返した。
そんなふうにしてさすがの僕も少し自尊心が削られたけれども、子どもたちに救われたところもある。
ご飯を作ってやるとそれなりにおいしそうに食べてくれるし、開き直って一緒にゼルダをやるとああだこうだ応援してくれる。
ソファに寝そべりながらメールチェックをしている腹の上に乗ってくるのも、嬉しさと迷惑さが3:7くらいだ(ちょっといまはどいてね…)
リビングで子どもたちに「テレビ以外のこともしなさいよ」と声を掛け、二階に上がって妻の額に手をあて、PC部屋で職場に「すみません」とメールを送り、またキッチンに降りてご飯の支度をして、食器を下げたら妻に替えのポカリを持っていき、少し電話をかけてまた子どもたちの相手をし、少しくたびれて横になっているとスマホにメールの着信音…。
妻がもう少し元気になったら、どうせ家から出られないしみんなでポケモンアルセウスをやろうねと話している。
たぶん僕以外操作できないから、僕がプレイするのをみんなで見ながらああだこうだ言うのだ。