凡庸

週一くらいが目標です。

願わくは花の下にて春死なむ

今週のお題「お花見」


 家内が出かけている、いまだ。


 午前中、家内と一緒に床屋へ行った。髪を切るたびに「短すぎる」だの「前髪が変」だのと文句をつけられるので、それなら、と付いてきてもらって床屋に直接注文をつけてもらおうと思ったのだ。
 二人連れだって自転車へ行き、いつもの床屋へ二人で入ると、いつもの床屋は「奥さんですか」と聞くので「マネージャーです」と返事をした。
 さて、そのマネージャーの活躍ぶりはというと、いつの間に用意したのやらアイフォーンから男前のさっぱりした髪形をしている、小奇麗な画像を取り出し「うちの旦那もこんな感じで」と無理な注文である。案の定床屋も戸惑い、「では作って行きましょう…」と言い出す始末。作っていく、切って減っていくはずの髪の毛であるのに、あたかも、ないものを無理やりくっつけるかのような言い草である。
 その後床屋は少し切るたびに、その頭髪の持主たる僕ではなく、その頭髪の持主の僕の持主たる家内に「どんなもんでござんしょ」と尋ねるので、家内は「前髪をもう少し」だの「ここを軽く」だのと文句をつけ、とうとう「よし」が出たのは一時間の後であった。

 軽くなった頭で、家に帰る。お互いに昼から別々の予定はあったが、小一時間あったので自転車で遠回りし、町のあちこちの桜を見て回った。
 さすがに歴史のある町らしく、あちこちに寺や神社、小さな小学校があり、そうした建物には桜が付きものである。
 二人で自転車を止めては桜を見物して周った。

 桜は年度の始まりに一斉に咲いて、あっという間に散ってしまう。何か幹の中の血液が爆発してその花びらを染めるが如くの迫力である。まるで何かの始まりの合図のようで、季節の方で勝手に始めてしまったお祭りのようで、これを見た人間は誰しも慌てる。ある人は慌ててブルーシートをひっつかんで、ある人は慌てて今期の納期に駆け込もうと、ある人は慌てて来年度の抱負を練る。
 日本に住む人は多かれ少なかれ、この桜に急きたてられる。それを新鮮に感じて喜ぶ人もいれば、焦りから不快感を抱く人もいる。とにかく町に出れば無視できないのが桜の木である。


 これから夫婦者としての二人の新生活が始まるようで、急きたてられるやら張り切るやら。