凡庸

週一くらいが目標です。

これは大事にしまっておこうね。

 夏の日、プリキュアスタンプラリーを終えて長女と喫茶店に入り一つのチョコレートパフェを二人でつついていた。彼女がなぜ急にそんなことを言いだしたのかはわからないけれど「お父さん、日記ってなに?」と聞かれた。

 

 日記っていうのは、例えば今日○ちゃんとお父さんでプリキュアのスタンプラリーをしてこうやってパフェ食べてるでしょ?○ちゃん楽しかった?(たのしかった。)お父さんもすごく楽しいよ。

 それでねこんなに楽しいのに時間がたつと少しずつ忘れていっちゃって、そのうちに○ちゃんが大人になるころには、子どものころにこうやってお父さんと二人でプリキュアスタンプラリーやってパフェ食べたこととかも全然思い出せなくなっちゃうの。そういうのって残念だし、嫌じゃない?(いや!)

 だから、「今日は二人でプリキュアのスタンプラリーをして帰りにチョコレートパフェを食べました。楽しかったしおいしかったです」って書いておくと、大人になって忘れちゃっても、いつかそれを見返したときに思い出せるの。(ふーん)

 日記っていうのはそういうためのものなの。忘れたくない楽しかったことを、また思い出せるようにするものなんだよ。(しまっておくの?)そういうこと。

 お父さんも秘密で日記を書くことあるんだよ。(へー。)これお母さんには内緒だよ?あの人、すぐ他人の日記見たがるんだから。

 

「じゃあ、

 じゃあ、お父さん、今日のことも日記に書いておいてね。○ちゃんが大人になって思い出せるように」

 

 そう。たぶんこの子が大きくなったら今日のこの日のことはきっと忘れてしまう。僕だって細かなことは忘れてしまう(実際に数日経った現在では、他にもたくさんあった小さな話をほとんど忘れてしまった)。

 いつごろからだったか、僕はそういう「忘れてしまう」ことが寂しくって仕方なかった。それで個人的に、思い出したときに日記を書くようにしていたけれど、それでも忘れてしまう。

 子どもを育てるようになってから、そういう忘れてしまいたくない瞬間はすごく増えた。子どもの一日一日変化していく発言や言葉遣いや仕草を、その明日には当たり前になってしまう変化のその最初の驚きを、細かく覚えていたいと思うようになった。

 そうは言ってもその変化に驚いた次の瞬間には、彼女たちがどんなことを言って僕たちを驚かせたのか忘れてしまう。日記でもスマホのカメラでも間に合わない。(これに関しては、驚いた次の瞬間には新たな驚きが彼女たちからもたらされるから、ということもあるし)

 

 何の話だ。そう、僕は未来の僕や長女のために、この夏の一日がどんな一日だったか残しておきたいと思う。ここから先は本当に個人的な記録です。

 

 その日は次女が家内とともに昼寝をしたので、長女と僕はプリキュアのスタンプラリーに行くことにした。これは前日に家族で散歩がてら行ったローソンにスタンプと台紙が置いてあって、とりあえず1つ押してみたみたのだった(たしかキュアソレイユだったと思う)。残り3つスタンプを集めるとシールがもらえるらしい。

 日焼け止めを塗って、帽子をかぶってサングラスをかけて(長女も)、まずは最寄り駅にあるローソンを目指した。とにかく暑い日だったと思う。

 最寄り駅周辺には二軒ローソンがあって、それぞれ違うキャラクターのスタンプが置いてあることを確認して(たしかプルンスとキュアセレーネだったと思う)、それからスタンプだけでは悪いので紙パックのジュースを買ってスタンプを押させてもらった。

 すでにもう暑いので買ったジュースを早速木陰のベンチで飲んだ。「飲んだことあるもん」と長女が選んだのはグレープフルーツジュースで、「やっぱり飲めない」と言うかもしれないことを見越して僕はミックスオレを選んだ。(子どもと過ごすと、自然とこういう「やっぱりそっちがいい」「やっぱり食べきれない」を見越した行動をとるし、この日も半分くらい飲んで、グレープフルーツジュースとミックスオレをとりかえっこした)

 飲み干して、水路の飛び石を渡ってから自転車に乗った。僕が飲み干したパックを平べったく潰すと長女はおもしろがっていた。長女の分も平べったくしてやった。

 

 駅から少し離れた商店街にもローソンがあったことを覚えていたのでそちらへ向かう。意外と自分の中でローソンの位置が何か所もマッピングされていて驚く。

 自転車で走りながら二人で何か話をしたと思うのだけれど忘れてしまった。寂しい。

 タイルをはり直している商店街の道を、長女は何か彼女なりの法則で飛んで渡っていく。手をつないでいるので転ぶことはないけれど他人にぶつかると危ないのでやめさせた。

 あてにしていたローソンはスタンプがかぶってしまっていた(たしかプルンス)。その近くにもう一軒あることを思い出してもう少し歩く。こんな距離に何軒コンビニがあるんだ。

 めでたく4つめのスタンプ(たしか香具矢まどか)が揃ったので長女に耳打ちをし、彼女は「シールください」と店員さんにお願いしてシールをもらった。シールは大事にお父さんのカバンにしまわれた。グレープ味の果汁グミを買った。

 帰る前に休憩することにして、近くの喫茶店に寄った。ショーウィンドウには大きなパフェの食品サンプルが飾ってあった。二人で相談してチョコレートパフェを注文することにした。

 席に向かい合って座る。正面に小さな子が座っているその新鮮な視点に、長女は介助が要らなくなっていることに改めて驚く。大きくなったなあ。

 「なんでスプーンの先がフォークになってるの?」「なんでやと思う?」「うーん、果物をこうやって刺して食べれるから」「そうだろうね。じゃあなんでこんなにスプーン長いんだろうね」「わからん」「パフェは大きいでしょ、だから底のほうまですくえるように、パフェのスプーンは長いんだよ」「○ちゃんパフェ食べるの初めてやからわからんかった」そうか、意外と今までパフェを食べさせたことなかったのか。

 おいしいね、おいしいね、と言いながら最後まで二人で食べた。きっと僕一人だったら食べられただろうけど、途中から飽きてこんな満足感はなかっただろう。

 途中で「日記ってなに?」と聞かれた。

 店を出て、帰省の際のお土産を買った。長女は祖父母へのお土産ににキーホルダーを選んだ。喜んでくれるといいね。

 帰るころには夕方で、家内も次女も起きていた。そのままみんなで車の1カ月点検へ行った。

 

 そういう夏の日。